F1に参戦した当時、異文化の中でどう仕事をするかを常に意識させられていました。ただ、その前にそういった経験がまったくなかったわけではありません。アメリカのファイアストンと一緒にレースを戦った時代にある程度の経験はしていました。そのときに、同じタイヤメーカーでありながら、ブリヂストンとは企業風土がまったく違うことを痛切に感じました。1995年のインディに参戦することが決定したときのことです。ファイアストンにとって、インディに参戦するのは21年ぶりのことであり、ある意味で一大プロジェクトでした。
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そういう大事なレースがあるにも拘わらず、アメリカのレース担当者は夏休みをしっかりと、我々には無断(たぶん彼らにとっては無断という意識さえなかったでしょう)でとりました。しかもそれを「私は○月○日まで不在にします」というファクス一枚で知らされたことに、かなりのショックを受けました。当然ですが、引き継ぎもなにもありません。普通、ブリヂストンのモータースポーツ部門のスタッフであれば、レースは自分の仕事の現場ですから、大きなプロジェクト中に、テストやレースの立会いをしないで休んでしまうという発想は皆無です。ところがアメリカは違います。レースの担当者である「責任感」よりも個人の「クオリティ・オブ・ライフ」を優先させます。自分に与えられている当然の権利を、会社やプロジェクトのために放棄する必要はないという感覚が強いわけです。皮肉ですがそういう状況になると当然、我々に仕事が押し寄せて来て、困難な状況に陥れば陥るほど日本人は頑張ってしまいますから、最終的にはうまくいき、結局インディで勝利を収めるという結果になってしまいました。